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記述23 現世では夢を見ない Fパート


これにて記述21から続いていたディア・テラス編完結です。お粗末さまでした。(瀕死)


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 館を出ると入口から少し離れた階段の上にブラムが立っているのを見つけた。
 夜の庭園に人気はほとんど無かった。時間も時間だし、パーティーの参加客はみんな散歩をやめて会場に入ってしまったのだろう。自分の他に見かけるのは敷地内を巡回する警備兵か、庭の隅で夜風を浴びながら寄り添う恋人同士くらい。随分と静かだ。振り向くと別館の奥から漏れ聞こえてくる楽しそうな喧騒と、眩いライトアップが少し名残惜しく感じられた。
 館の入口を出てから少し歩くと、降り階段の一番上に座り込むブラムの後ろ姿を見つけた。
「待っていてくれたの?」
 背中を覆うように広がる絹色の長髪がふわりと揺れる。振り向いた彼女の顔は不機嫌そうだった。
「部屋の場所がわかりませんでした」
 どうして嘘を吐くんだ?と肩をすくめてジェスチャーしてみると、すぐにそっぽを向いてしまった。
「もしかして、聞いちゃった?」
「いいえ。会場を出た後のディア様のお顔を拝見して、悪だくみをしていそうなものであったらサーチしてやろうと考えていましたが……そんな顔で出てこられては、私だって野暮なことはできません」
「今の俺はどんな顔をしている?」
「さあ。館からの逆光でよく見えません」
「そっか」
 少し距離を取りながら、彼女と同じように階段の段差へ腰かけた。ブラムは膝を抱えて俯きながら、階段の下の方を意味もなく見つめていた。
 二人の間にポッカリと空いた隙間に、静かな音色の夜風が通り過ぎて行く。
「忠告は私の領分ではありません。しかしながら、私は貴方を利用させてもらっている身分ですから、何も言わずに黙っていることも道理に反していると感じます。なので敢えて言わせてもらいます」
 しばしの間を空けて、ブラムは真剣な口ぶりでこう言った。
「検索結果が出ました。ダムダ・トラストは信用に値しない人間です」
「……どうして?」
「あの男はアデルファ・クルトを殺している」
 ああ、なるほど。
「アルレスキューレとフロムテラスが同盟国である以上、フロムテラスにうっかりと迷い込んでしまったアデルファ様の身柄はアルレスキューレ側に預けられました。ダムダ・トラストです。あの男とアデルファ様は旧知の仲で、龍のことを知っていたこともそのためだったのでしょう。彼の処分を任されたトラストは、しばらくの間は彼のことを無視するように放っていました。アデルファ様が、とある人物と接触するまでは……」
 そういえば、ライフの名前を出した時に一瞬だけ嫌そうな顔をしていたな。
「私は情報を検索できても、心の内で何を考えているかまでは読み取ることができません。トラストが何を目的としているかはわかりませんが、ろくでもないことに違いありません。あの男は私たちの邪魔をしようとしている。絶対にそう。だってあれは……平気で人を殺せる人間です。どれだけ親しかった人であろうと、いとも容易く手を切ってしまえる、冷酷な怪物。人の良い顔をしているのだって私たちを騙すための演技に決まっている。いずれ化けの皮が剥がれて本性を現します。そうに決まっている。ぜったい……」
 声が震えている。怒りとも悲しみとも言えない感情の渦が、彼女の小さな体を取り巻いていると感じた。そんな彼女の痛々しい姿を横目に見ながら、俺はというと、どうだろう、申し訳ないと思うくらいはできたかな。
「あの人がみんなと違うことくらい、俺だってわかってるよ。あの顔を見た瞬間、今までにたくさんの人間を殺してきたんだろうなって感じ取ってしまったから」
 それすらも俺には魅力的だった。
 ずっと昔に見ていた夢を思い出す。煌びやかな社交場で、高級スーツに身を包んだ背の高い政治家たちの後ろ姿。
 権力と責任の間に生きて、自由すら投げ捨てて社会に貢献する賢者たち。世の中の裏側にだって手を差し伸べ、必要悪とも共存し、そのために多くの人から恨み言を吐かれ続けていた。そんな大人たちの悲しみ、怒り、心の底から出す笑い声と優しさの中で俺は育った。
 どこで間違えたのだろう。彼らは俺のヒーローで、俺は彼らのようにはなれなかった。
 自分の中に見つけた性根の歪み。俺のために泣きじゃくる養父の顔を前にして、同情すらしてあげられなかった現実。
「ブラムちゃん」
 声をかけると、彼女は素直にこちらの方を見た。不機嫌に曇っていた表情が、俺の顔を見た途端に驚きへ変わっていく。
 そりゃそうだ、二十四にもなる大の男が人前でボロボロ泣いていたんだから。
「俺のことを、よく見張っているべきだ」
 
 
 
 眼から涙が出てくる。全然止まらない。
 以前までの俺だったら、どんなに辛いことがあっても人前で泣いたりなんかしなかったのに。変わってしまった。
 氷漬けにして放っておいたはずの理想が決壊した。それらが塩水の濁流になって押し寄せる。
 その後に、水平線の向こう側へ沈む巨大な落陽の幻覚を見た。血潮と同じ色をした真っ赤な太陽。なんて美しいんだろう。
 空の向こうから聴こえてきた野鳥の羽ばたく音。遠ざかる黒い影の群れ。
 肌を撫でる潮水は、体の奥を突き刺すように鋭く冷え切っていた。悲観の涙、努力の汗と同じ香り。
 自由と希望に満ち満ちた大海へ、自らその身一つで飛び込んで、それからどうした。
 結局俺はどこにも行けず、目的地すら決められずにこの広い世界を漂っているだけじゃないか。
 強がってはいたけれど、心の奥底では、どうせ辿り着けないんだからって諦めていたんだよ。人生に意味なんて必要ない。全部全部ただの悪足掻き。世界への嫌がらせ。俺は君たちが思うほど無様な生き物ではないんだと。
 もうそれで良いんだと思っていた。
 それなのに……全部あの人のせいだよ。
 
 
 
 
 
『 ああ… もっと 生きていたいな 』




...
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