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記述23 現世では夢を見ない Dパート

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アルティメット・イデアール回
雰囲気は「世にも奇妙な物語」(しかし鵺獅子はこの番組を観たことがない)

このパート、実際に執筆する前まではテーブル囲って会話しているだけの地味なシーンになるなぁ~、なんて思っていたのですが、書きあがった後の内容を見るとまあ、まあまあまあ、なかなか面白みのある感じに仕上がって良かったじゃないですか!
記述23は「つなぎ」とか「休憩」とかそういう役割の話になると思っていたので、思いもよらぬ見せ場が作れて行幸です。

今回の更新分で結構話を進めることが出来たので、トラストハウスが舞台の記述23は次のパートでお終いです
冬葬祭が近づいてきましたね もうすぐです 作者のテンションはとても高い
早く先の展開が書きたいので、次回更新分もちゃっちゃっと書き上げられたらいいなって思います
買ったばかりのポメラちゃんが火を噴くんだぜ

 



「イデアール・アルレスキュリアの話をしましょう」
 対話の席についたトラストさんは開口一番にこのような言葉を発した。
「それは、有名な人物の名前なのですか?」
 どんな話を切り出されるのか身構えていた所に、思いもよらず聞いたことの無い単語を出されて戸惑ってしまった。たったそれだけのつもりだったのに、そんな俺の様子を見たトラストさんは何が面白かったのか口元を押さえながらフフッと小さく笑う。アルレスキュリアという言葉が付く以上、アルレスキューレの国や王室に所縁のある物や人の名前であることは見当つく。しかしイデアールの方はまるで聞いたことが無い。トラストさんの反応がどうにも腑に落ちず、ブラムは知っているのかと三つ目の席に座る彼女の方をチラリと見てみた。俺の視線に気付いたブラムは何も言わず、少し呆れた様子で肩をすくめるだけだった。
「アルレスキューレの次期国王陛下の名前ですよ。しかしそうなったのもつい最近のこと。それ以前は政治の表舞台どころか民衆の世間話にも登場しない日陰者でした。ディアがこの名前をご存じでないことも無理はありません」
「次期国王……とすると、明日行われる冬葬祭の主役?」
「ご名答。まずはこちらをご覧ください」
 トラストさんはテーブルの上に置かれていたリモコンを手に取ると、それを空中へ向けてボタンを押した。すると頭上に吊されていたシャンデリアの裏側から機械のアームがぐるりと伸びてきた。アームの先には折りたたみ式の液晶モニターが取り付けれていて、そっれが俺たちにとってちょうどいい位置に設置された。ロマンチックなパーティー風景がこんな簡単な機械一つでサイバーテイストに塗り替えられる。ちょっと台無しにされちゃった気がしたが、この会場の至る所に監視カメラが設置されていることには既に気付いていたのだから、今更雰囲気を壊さないでほしいと文句を言っても仕方ない。
 そもそも俺たちが今いるこの部屋自体、パーティーホールの赤階段を上がってすぐの壁の向こうにあった隠し部屋だ。トラストさんは俺とブラムを部屋の真ん中に用意してあったテーブルに座るよう促しながら、「ここなら防音設備もバッチリだから」と朗らかに笑っていた。テーブルの上には飲み物や菓子などが置かれている。俺とブラムはそれぞれが指定された席につき、ティーピッチャーの中のフルーツティーをグラスに注いだ。
 始めからこんな閉鎖空間で話をするつもりだったなら、わざわざパーティーに招待なんかしなくて良かったのでは? と、疑問に思いもした。しかしそれはそれ。腹の底が知れない男の都合に逐一ケチをつけるのは不毛なことだ。
 そんないかにも怪しいトラストさんの言動を一緒に眺めているブラムは、彼のことを警戒しているように窺えた。ついさっきまで初めてのパーティーにはしゃぐただの女の子だったのに、今はその時より幾分シャキッとした姿勢へ切り替えている。彼女なりにこの対面を真剣なものだと受け止めているのだろう。かくいう俺の方は、随分とフランクな気持ちでトラストさんに話しかけているのだけれど。
 カタリッとトラストさんがリモコンをテーブルの上に置きなおす音がした。
「これは前回の冬葬祭の様子を記録した、大変貴重な映像です」
 モニターの中の映像を見る。そこには一人の若い男性の姿が映っている。年の割に貫禄のある風貌。手には大粒の宝石が装飾された片手剣を持ち、それを眼前で頭を垂れる人たちの前で掲げている。周囲の畏まった態度や、本人の身なりが整っているあたりから察するに、何かしらの儀式を行っている最中なのだろう。
 剣を掲げた男は祭壇の前で何かを宣言する。軍歌を歌うように勇ましい声が、画面を越えたこちら側まで届いて、狭い部屋の中を反響する。しかし、その口から発される言葉はまるで呪文。何一つ意味を理解することができない。
「なぜ……?」
 モニターの映像を一緒に鑑賞していたブラムが小さな呟きを漏らす。真剣な眼差しで、食い入るように画面の中の光景を目で追っている。しばらくそのようにしていたが、やがて彼女は意を決したようにトラストさんへ話しかけた。
「ダムダ・トラスト様。私は、前回の冬葬祭が開催されたのは六十年以上も昔のことだと記憶しています」
 トラストさんはアルコールグラスに入った氷をカラカラとわざとらしく鳴らしながら、軽い調子で返事をした。
「その通りでございます、可愛いお嬢様。これはそう、今から六十三年前……つまり、かの王族大虐殺事件より以前の光景を撮影した記録映像。本来であればそれ以上でも以下でもない代物のはずですが……ブラム・ラグエルノと名乗る少女よ、貴方はこの映像のどこを見てそこまで動揺しているのでしょうか?『そんなものがまともな状態で現存しているわけがない』とでも仰りそうな顔をしていますが?」
 ブラムの眉がピクリと動いた。
「……貴方は、一体どこまで知っているのですか?」
 真剣な語調で続けざまに詰問する。
「私はただの人間です。しかしながら、貴方がたにとって最も重要な『世界改変』と『龍』の関係性についての情報ならば、ある程度把握しております」
「ただの人間? そんなことを知っているというのに?」
「落ち着いて、ブラムちゃん。挑発だよ」
 俺がそう声をかけると、ブラムは口を噤み、俺の方をチラリと横目に見る。何か言いたげだったがそのまま何も言わず、カップの中の薄紅色のフルーツティーを一口飲んだ。その挙動がややぎこちない。
「話を続けていただけますか?」
 トラストさんは口角を少し上げて笑うと、リモコンのボタンをもう一度押した。するとモニターに表示されていた映像が切り替わり、場面が薄暗がりの室内へと移る。画面中央には車椅子のような形をした大きな椅子があって、そこに剣呑な雰囲気を纏わせた男が腰を下ろしていた。先程の映像で見た若者とほんのり面影が似ている。
 床に付くほどボサボサに伸びた灰色の髪。長い前髪の隙間から見える顔半分には、額の上から首の下まで赤褐色に変色した生々しい古傷の痕が広がっている。まるで顔の皮膚を剥ぎ落し、別の皮を張り直したかのよう。そんな誰もが思わず目をそらしたくなるような傷を顔面に貼り付けているせいだろうか、彼の表情は陰鬱そのものだ。眉間には深い皺が寄っているし、じっとりとこちらを睨む切れ長の目の下には深い隈がある。
 そんな男の傍らには、銀色の豊かな長髪をなびかせた美しい女性が立っている。俺は画面の真ん中に鎮座する男よりも、むしろこちらの女性の方が気になった。美人だから、なんて単純な理由だけではなく……どこかで見たような気がしたのだ。純白のドレスに青いケープ。真っすぐと背筋を伸ばし、静かに男の横で佇んでいる。
「このお方が、イデアール・アルレスキュリア様でございます」
 女性の方へ持って行かれていた意識を彼へ戻した。この不気味な男がアルレスキューレの次期国王。そう言われて改めて彼のことをまじまじと観察する。どうやら誰かと会話しているようだ。さっき見せられた冬葬祭の映像と違って、今度の彼らの会話は問題なく聞き取れる。しかし会話相手は画面外から彼に話しかけているようで、姿が見えない。
『かの反乱軍は日に日に勢力を増していく一方であります。このままでは彼奴等に戴冠式を台無しにされてしまうことでしょう! イデアール様はこの事態をどのように受け止めておられるのでしょうか?』
『お前たちに解決できなかった問題を、この私がどうにか出来るとでも思っているのか?』
 イデアールは外見に相応しい威圧感のある声で、低く唸るように言葉を紡ぐ。
『今の陛下の手腕でもってすれば、あるいは……』
『虫の良い話だ』
『……元老院の間では、冬葬祭などという古い祭事を今さら催すこと自体間違いであると、そういった意見も多く上がっております。イデアール様の即位に反発的であった者たちも、それみたことかと声を大きくしていらっしゃる。何よりイデアール様御自身にとっても反乱軍の妨害は不本意な問題であるはずでしょう。なにせ貴殿は以前よりずっとこの時を……』
『囀るな』
 切り捨てるような一言。それと共に、ガシャンッ、と画面外で何かが落下して壊れる大きな音がした。
『ひっ、ひえっ! い、今のはっ!?』
 続けざまに、棚の上に置かれた物が一斉に動き出すような、明らかに不自然な物音が部屋中にひしめき始める。
 ゴトッゴトゴトッ……
『衛兵……いや、誰もいない、はずっ!?』
 ゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴド……
『待ちなどするはずがない。二度と来るはずが無かったのだ。それが来た。来たのだ!』
 イデアールは目の前の臣下を心底疎ましげに睨みつける。赤く腫れあがった瞼がグッと持ち上がり、その下から現れた鈍く色褪せた碧眼に嫌悪の形相が浮かび上がる。周囲の物音はまるで大地震に見舞われた時のように、どんどん大きくなっていく。
『貴様にその意味が解るか!?』
 突然声を荒げ、椅子から立ち上がろうと身を乗り出す。するとそこで、今まで黙って立っているだけだったあの女性が、スラリと彼の腕に自分の白い手の平を乗せた。静かに、諫めるように、冷たく。
『お兄様を理解できる人など、この世には一人しかおりません』
 澄み切った笛の音のごとく優美な女の声。薄暗い部屋の奥から一歩踏み出た彼女の顔が、くっきりと画面に映る。青い瞳をしていた。鮮やかな青色。清らかな水がたんまりと注がれた、深い深い泉の底を覗き込むが如き純青。それは魔性か。あるいは神秘か。
 その女の瞳が、ほんの一瞬画面の向こう側にいる俺の方を見たような気がした。ゾクリと背筋が震えた。
『良き臣下よ、去りなさい。あなたはここにいるべきではない』
 彼女が画面外で震える誰かに向かって声をかける。それと同時に、再生していた映像がプツリと途切れ、画面がブラックアウトした。
 部屋の中がシーンと静まり返る。
 何が起きたのかわからなくなっていた。
 ハッと意識を現実に引き戻した後にトラストさんの方を見ると、彼は普段と変わらない余裕のある笑顔でこちらの様子を眺めているだけだった。俺がその顔を怨めし気に見つめていると、肩をすくめてフフッと笑った。
「お見せするのはここまでですよ。続きは、そう、明日の戴冠式でご確認ください」
 横を見ると、ブラムも唖然とした顔でトラストさんの方を見ていた。
 映像には指摘したい箇所が山のようにあった。けれどもその数があまりに多すぎて、どこから問い詰めればいいか混乱してしまう。そうやって言葉を詰まらせているうちに、トラストさんは一人で勝手に解説を進めていく。
「一つ目の映像は、先にも言った通り六十年前の冬葬祭を撮影したもの。そして二つ目は、つい先月頃、アルレスキュリア城内に設置していたカメラが偶然捉えてしまった映像です」
 本当に? 明らかに悪意を持って狙いを定めた盗撮映像だった気がするけれど?
「その両方に映っている灰色の髪の男は同一人物。どちらもイデアール様で間違いありません。月日の経過のわりに外見にあまり差が……いえ、変わってはいるのですが、老衰した様子が見えないのは、あのお方の体がほとんど機械でできているからに他なりません」
「それって、サイボーグ化の手術をしたということですか? 一国の主になろうともいう身分の人間に、一体どうしてそんなことを?」
「それ以外に延命する手段が無かったのです。当時の彼らはフロムテラスとの国交を今ほど親密に行っていなかったため、医療技術に関するノウハウが不足していました。細胞再生型の治療も、神経移植の処置も、夢のまた夢」
 それにしたってサイボーグ化なんて、幾らなんでも前時代的すぎやしないだろうか。神経に機械を取り付ける過程には意識が飛ぶほどの激痛が伴うし、身体改造を行う前にも後にも拒絶反応を始めとした様々な副作用の問題が伴う。あの非人道的な管理局の連中ですら「人権侵害」とレッテルを張って違法行為に定めたほどのこと。あぁ、イデアールの風貌が過去と現在とで見る影も無く豹変しているのも無理はない。途端に同情したくなる気持ちが湧いてきた。
「彼はどういった経緯で、そんな手術を行うに至ったのでしょか? 顔にできた大きな傷痕といい、何か大きな事故にでも巻き込まれたように見えますが」
「五十八年前にこの国で起きた虐殺事件のことはご存知ですね?」
「はい」
「イデアール様はその生き残りなのですが、その際に体の左半分を欠損するほどの大怪我を負いました。どこからどうみても致命傷、しかしどういうわけか生きてらっしゃる。ありがたい話です。それによって私は彼の口から直接、事件現場で何が起きていたかの証言を聞き出すことができました。それが随分と興味深い内容なのです」
「教えてください!!」
 しばらく黙っていたブラムがトラストさんの言葉に食いつくように割って入ってきた。
「事件の当時、あのイデアールというお方は一体何を目撃なさったのでしょうか!?」
「そうがっつかずとも、順々に教えてさしあげますよ」
 ブラムの必死な態度を嘲笑うかの如き軽い口調。完全にペースを持っていかれている。
「ディア。貴方は一時期、エッジ・シルヴァと共に旅をしていましたね」
「確かに」
 急に知り合いの名前を出され、ハイと頷く。
「虐殺事件の犯人が、彼の実の父親レトロ・シルヴァであったことは知っていますか?」
「……知っています」
 これにも頷く。
「では、それを殺したのがソウド・ゼウセウトだということは?」
「は、えっ!? ……今、なんと?」
「ソウド・ゼウセウトですよ。こちらも旅に同行していましたから、勿論ご存知のはず」
 その名前を聞いた途端、ブラムの眼の色が変わった。
「ソウド、ゼウセウト……? 私は、知りませんよ、そんな人物の名前は」
 彼女の発した言葉に今度は俺の方が驚かされた。『全知』を豪語する彼女の口から『知らない』という言葉が出る。それにどれだけの意味が込められているかなんて、俺にもわかる。
「そちらのお嬢様は彼をご存じでないと? ならば顔をお見せしましょう」
 そう言ってトラストさんは再びモニターを切り替える。さっき見せられた六十年前の冬葬祭の様子が再び画面に映し出された。
「画面の奥の方をご覧ください。壁際に何名か青色の軍服を着た男が立っているのが見えますね。その中の一番背の高い男がソウド・ゼウセウトです。拡大しましょう」
 映像の中には確かにあのソウドの姿が映り込んでいた。相変わらずの仏頂面で腕を組み、気だるそうに壁にもたれかかっている。見ていて腹が立つほど整った顔立ちに、何より目を引かれる派手な青色のストレートヘアー。間違いなくソウドだ。
「六十年前の映像ですよね?」
「六十年以上前からご健在ということです。小皺の一つも増えないままね」
 俺は思わず傍に座ってるブラムの方を振り返った。額に汗がにじむ。ブラムは大きな黄緑色の瞳をさらに大きく見開きながら、テーブルに向けて顔を俯かせている。心ここにあらずといった様子で、俺たちの話なんてすでに聞いていない。検索しているのだ。「アルレスとは相性が悪い」なんて弱音を吐いていたのに、今はそんなことは関係なく、必死に力を行使しながら考えている。ソウド・ゼウセウトの情報を探している。
「見ての通り、彼とイデアール様は旧知の仲であるため、お互いにお互いのことをよく知っています。ソウド本人は記憶障害を患っているため、証人としては使い物になりませんが、イデアール様の方は役に立つ。彼はソウドのことを次のように話し聞かせてくださいました……」

『 私が初めてソウドに会った時、奴はなんとほざいたか。
   「こことは別の時空に存在していたフォルクス大陸から来た」
  ふざけた話だ。さらに続けざまにこう言う。
   「親なんていない」「人間ではない」
   「自分は、今は亡きフォルクス大陸を見守っていた名も無き龍であった」
  ……と。ああ、気が滅入りそうな話だろう。しかし私はこの戯言を信じてしまう。
  奴は ソウド・ゼウセウトは 私の目の前で、この世の悪しき神を討ち滅ぼしたのだから 』

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