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記述18 誰が為の裁き Cパート

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~本文と特に関係のない四コマを添えて~


こんばんは、ていうかグッドモーニングコール 鵺獅子です
記述18のCパートの暫定版を書き上げましたので、いつも通りブログにて公開させていただきます
調整、推敲後の完全版は記述18が終わった頃にまとめてサイトに上げる予定でいます
たぶん今回の話はEパートくらいまであると思われます
Cパートはツナギ回なので短いですが、ワクドキいっぱいな内容なので楽しんでいってくださいね!
 
 流血表現があります。
 
 

 
  



 あの小さな泉から至る追憶の奔流は、多くの光景を巻き込みながら流れに流れ、湖のような場所まで流れ着いた。今ちょうど俺の目の前に広がっている湖はその心象風景の中の湖と色は違えどよく似ていた。
 天空を覆い隠す雲を映し込み、鈍く照り返す銀色の水面。遠い空の向こうから吹く風を受けて忙しなく揺れる波。湖を取り囲む湖畔に敷き詰められた真っ赤な紅葉。
 その光景に一歩近づこうと踏み出すと、足元に散っていた紅葉が一枚、くしゃりと音をたてて崩れた。血のような赤色をしたそれは、粉々になって強風に飛ばされていった。
 責められたような気持ちになった。
「まだこんな所にいるのか?」
 追憶の中で呆けている俺に向けて、同じく記憶の中にしかいない彼が言葉を投げかけた。返事をせずに黙っていると、やがて彼は当たり前のように俺の隣に立ち、共につまらない湖を見つめ始めた。
 ステラと別れ、訳も分からぬままアルレスキュリア城に流れ着いたあの日から七年の時が経っていた。イデアール・アーニマライトと名乗ったこの男とはその間ずっと一緒にいたような気がする。行き場の無かった俺には物好きな彼の傍は居心地がよく、利用するには絶好だった。だが、もしかしたら当時の俺にはイデアールに対する情のような物が沸いていたのかもしれない。七年というそれなりに長い月日の中、様々な出来事が二人の間を通り過ぎて行ったからだ。
 移り変わる時の中で、彼はどんどん変化していった。大きくなった背や図体の話なんて些細なもので、一番変わってしまったのは彼の環境と心境だ。エルベラーゼを失った日、彼のくすんだ瞳が大きく色を変えたことを覚えている。彼は王女と共に未来の王権を失い、代わりに従士団という仲間を得た。それは自由への第一歩に他ならず、故に彼は悲しむべきか喜ぶべきかも判別できず感情を押し殺すような日々を過ごしていた。
 王位目当てにすぎなかった側近たちはあっという間に彼の前から立ち去り、婚約者の裏切りに同情する優しき者たちですら腫物を扱うように彼を避けて通った。結局彼の周りに残ったのは彼が直々に声をかけて集めた従士団の連中だけ。アルレスキューレという大きな国の中で、彼に選ばれた従士だけが彼の痛みを知り、隣に立ち、味方でいることができた。皮肉なことに、その中には俺が含まれていた。
「号令が聞こえなかったのか? 他の者たちはすでに野営地に戻り、待機しているぞ。予定通り昼前にこのアシミナーク湖を出立すれば、日が暮れるまでには次の目的地に着けるはずだ。そこで現地の者の話を聞き……」
「オマエこそ、まだ王女を探す気なのか?」
 イデアールは遮られた言葉を途切れさせ、しかしてすぐに軽やかな微笑で返事をした。
「民が私に、そうあるように望む限り、私はそのように生きるつもりだ」
「食えないヤツだ」
「そうだろうか」
「次の目的地は国境沿いの関所だったな? あそこはこの辺りの物流の中心地だと聞いた。さぞや美味い土産が手に入るだろうな」
「ソウドこそ、内心楽しんでいるのだろう? お前は昔から新し物好きだからな。もう少し所持物にも落ち着きを持った方が良い」
「俺に小言を言うとは良い身分になったもんだ」
「人生の三分の一も共に過ごせばよそよそしさなど掻き消えるもの。さぁ、ぼやぼやしていないで野営地に……」
「イデアール様!!」
 突如後方から大声をかけられ、振り返ると顔なじみの従士が一人、大急ぎでこちらに向かって馬を駆ってきた。彼は俺たちの前で荒々しく馬を止めると、口伝えで報告を始めた。
「王宮より電報です! 国王陛下のもとに、かのレトロ・シルヴァから連格があったそうです。なんでも、近いうちに王城に赴き話を付けたいのだと!!」
「なんだと!?」
 イデアールは声を上げて驚き、すぐに近くに待機させていた愛馬を呼び寄せ、その背にまたがった。
「近いうち、などと適当なことを抜かしたものだ!! 変更だ! 予定を変更し、急遽全団員で王都に帰還する!! すぐに他の者たちに支度をするように告げろ!!」
「ハッ!!」
 命を受けた従士はすぐさま馬を駆り、野営地の方へ戻っていく。
「ソウド、お前も……付いてきて来れるな?」
 イデアールは真剣な面持ちで俺の眼を見つめ、尋ねた。
「地獄までなら構わんさ」
「感謝する」
 
 
 
 野を駆け山を駆け、急ぎに急ぎ故郷の城に辿り着いたのは深夜のこと。暗雲にかき消された新月のような暗闇の中浮かび上がったアルレスキュリア城は普段とはまるで違う張り詰めた空気を感じる。城壁の周りを無数の兵士が取り囲むその姿はまるで、今から戦争でも始まるのではないかと思う程物々しい様相を呈していた。普段なら民間人の立ち入りも自由だった城門は厳重に閉ざされ、とても「客人を歓迎する」ような空気ではなかった。
 あの男にそこまでする意味などあるのか? いや、あるわけがない。あったとしても、それはただの人間では容易に想像することも出来ないような脅威だ。この国に住む王族や貴族は、もっと彼のことを馬鹿にしていたはずだ。
「イデアール、様子がおかしい。一度考えを……」
「扉を開けよ!!」
 イデアールは俺の言葉を遮り、半ば無視をするような形で声を上げ、兵士たちの居座る門前に躍り出た。
「扉を開けよ!! 我が名は王弟ユグウィ・アーニマライトの長子、イデアール・アーニマライトである!! 我が帰還する令は届いていたはずだ!! 尚も何故執拗に我が入城を阻むのか!?」
 勇ましい口上が闇夜に轟く。しかしそれを聞いた兵士たちは槍を構え、その切っ先をイデアールに向けた。見知った顔がいないわけでもないのに挨拶の一つもなく、それどころかその兵士たちの顔には表情すら無いように見えた。この暗夜よりもさらに暗い、泥沼の如き鈍重な視線がイデアールをうつろに見据えている。
「やめておけ、イデアール!! 様子がおかしいんだ!!」
「何故私の行く手を阻む!!」
 狂っているのは兵士だけでは無かった。彼は叫ぶや否やすぐさま愛馬の尻に鞭を打ち、槍を構える兵士たちに向けて突撃していった。
「やめろ!! イデア!!」
 自分もまた声を上げ、彼の後を追って馬を走らせる。冷静さを欠いた彼を止める手段はあるだろうか? 助けを求めほんの一度だけ背後の従士たちを振り返ったが、誰一人追いかけてくる様子は無かった。そんなことがあるはずがないのに。
「おかしい……なんだこれは? 何が起きているんだ?」
 思わず口に出る疑問の言葉。しかしその答えなど何処にも見当たらず、必死で追っていたイデアールの方をもう一度見ると、馬上で剣を引き抜く一筋の閃光がチラリと見えた。
「やめろイデア!! クソっ、さては聞こえてすらいないな!?」
 ならば……
「城門を開けろ!! その男は正真正銘、この国の要人、イデアール・アーニマライトだ!! すぐさま槍を降ろし、そのけったいな城門を開けろ!! 俺たちはその先に用がある!!」
 俺が兵士に向けて叫び伝えた。するとどういうわけか彼らは槍を降ろし、扉の鍵を開けようと動き始めた。突然の変化にわずかに怯んだイデアールが馬の速度を落としたが、それでも勢いを抑えきれず、兵士を数人巻き込みながら城門に衝突した。
 馬上から弾き飛ばされた彼の大きな体が城門の前にドサリと転落する。そのすぐ側まで急いで駆け寄った。馬から降り、「大丈夫か?」と声をかけるが、返事が無い。彼は返事が無いままムクリと身を起こし、しばし虚空を見つめていた。その顔には擦り傷がいくつかあるだけで、頭を強打した様子はなかった。しかし服の下、肩やわき腹から赤い血が滲み、とても無事と言える状況ではない。
 にも関わらず、彼は平然と立ち上がり、おぼつかない足取りで開いたばかりの城門の方へ歩いていく。
「おい!!」
 急いで腕を掴んで制止させようとした。しかしイデアール俺の腕を力いっぱい振り払うと、なおも城門へ向けて、城内へ向けて、足を進める。
「何やってるんだよオマエ!!」
 彼の背中にしがみつき、怒り混じりに声を荒げて叱りつける。しかし彼の表情は周囲の兵士と同じように真っ暗に濁っていて、言葉なんて一つも届いていないようだった。
「行かなくてはならない……呼ばれている……行かなくて、は、、、」
 ゾクリと背が震えた。それほどまでに彼の様子は異常だった。まるで意思を持たぬ人形のように、誰かに操られるがまま何処かに向かおうとしている。操られるとは、一体何に? いや、誰にだ? そんなことが出来るヤツは、きっとこの世に一人しかいない。
 イデアールは隙をつくように俺の腕の中から再び抜け出し、そのまま黙々と、折れた足をひきずりながら城へと入っていく。
 どうしよう。俺に止められる気がしない。これはもはや「力不足」とか、そんな簡単な問題ですらないような気がした。根拠なんて何処にもない。あるのは既視感だ。あの日、我が身の全てであったはずの少女を失った、あの日の状況によく似ている。
 だとしたら、イデアールの向かう先には……
 追いかけよう。ついて行こう。この城に、この国に、この俺に何が起きているのか確かめるなら今だ。
 彷徨うように、しかし真っすぐに歩を進める彼の背をゆっくりと追いかける。城内に入り、階段を上り、広間のような廊下を通り過ぎ、彼がたどり着いたのはこの国の支配者が君臨する玉座の間だった。
 しかし、今は深夜だ。王なんているわけがない。それどころか玉座の前には兵の一人もいない。灯りもない。豪勢な装飾がふんだんにあしらわれた分厚い扉、その向こうからは何の音も聞こえてこない。風の音一つ、松明の揺らぐ音一つ。そうやって耳を澄ましていると、
 ドンッ!!
 突如扉が弾けるように開き、その向こうから、真っ黒な何かがゴロゴロと転がり込んできた。
 血だらけの人間だった。
 首をほとんど切り落とされ、叫び声の一つも上げられないまま苦悶の表情をこちらに向けていた。充血した白目がグリグリと忙しなく動き、止まり、そのままこと切れる。
 見知った顔だった。これはこの国の大臣だったものだ。有力な貴族の出で、かのアルレスキュリア国王の側近で、品行方正と評判で……こんな、血だらけの肉だるまが?
 だが、そんな些細なことを気にしていられる状況でもない。なぜなら、今まさに足元に転がったソレと同じようなものが、血塗れの死体が、広い広い玉座の間いっぱいを埋め尽くすように散乱していた。
 噎せ返るような血の臭い。死の臭い。
 その凄惨な光景の真ん中に、あの男が、レトロ・シルヴァが立っていた。
「お前が最後の客人か? 呼んでもいないのによく来たな」


 
 
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